ISO/TC94/SC14 アーネム会議報告
株式会社イマジョー 川口 剛志
出典: 公益財団法人日本防炎協会
ISO/TC94 個人安全─個人用保護具(Personal safety-Personal protective equipment)/SC14 消防隊員用個人防護装備(Firefighters’ personal equipment)/WG’s(ワーキンググループ)&PG(プロジェクトグループ)会議
月日 | 曜日 | AM | PM |
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6/17 | 月 |
WG1<一般要求事項>: |
WG1<一般要求事項> ・クリーニングと補修 |
6/18 | 火 | WG2<建物火災>: ・ステーションユニフォーム |
SC14/SC15 ・呼吸器 WG2<建物火災> ・防火フード |
6/19 | 水 | WG3<原野火災> | WG3<原野火災> |
6/20 | 木 | TC94 WG1<一般要求事項> コンパチビリティ |
WG1<一般要求事項> WG2<建物火災> WG4<HAZMAT(危険性物質)> |
6/21 | 金 | WG5<レスキュー> | Plenary(全体会議) |
日時: 2019年6月17日(月)~ 21日(金)
場所: アーネム(オランダ) IFV(Instituut Fysieke Veiligheid)(Institute for SafetyFire Academy)
参加国: イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、アメリカ、ドイツ、カナダ、フランス、ベルギー、オランダ、オーストリア、日本、中国 計13か国
日本参加者(順不同)
日 本: 日本代表団 団長 小林防火服(株):小林氏、一般財団法人カケンテストセンター:辻氏、帝人(株):鈴木氏、デュポン・スペシャルティ・プロダクツ(株):池田氏、(株)廣瀬商会:藤波氏、帝国繊維(株):園部氏、辰野(株):西垣氏、櫻護謨(株):城田氏、アゼアス(株):熊谷氏、(株)赤尾:石川氏、日本ゴア(株):久保氏、エア・ウォーター防災(株):佐々木氏、エア・ウォーター防災(株):横山氏、(株)重松製作所:池田氏、(株)イマジョー:川口、通訳 計16 名
議 題:
・SUCAM
・CBRN
・個人防護装備のクリーニング及びメンテナンス
・林野火災用個人防護装備
・ステーションユニフォーム
・自給式呼吸用保護具
・防火フード
・コンパチビリティ
・現在進行中の検討規格の進捗他
1. WG1
(1)SUCAM(個人用保護具の選択、仕様、保守、管理)
議長: デイブ・マシューズ氏(イギリス)
消防防護装備の選択、使用、保守、管理に関する規格(PDTR 21808)のCIB投票結果の確認を行った。投票結果は16か国の賛成と 2 か国の反対投票があった。
会議では、コメント付き反対投票をしたカナダのコメントについて、審議が行われた。コメントの多くは承認され、コメントを反映したドラフトを作成することになった。しかしながら、今回の投票時のドラフトには、項番号と項タイトルのみが記載され、本文が書かれていない箇所が複数あった。これらについては、その関連分野のエキスパートからのインプットが欠落している項目であり、議長の指名により作業チームを構成し削除するもしくは改訂する場合はその概要を検討し作業していくことになった。
(2)クリーニング・検査・リペア
議長: リチャード・バヒミヤー氏(イギリス)
まず、題名がこれまでの“Cleaning, Maintenance and Repair of Firefighters PPE”から“Cleaning, Inspection and Repair of Fire Fighter’s Personal ProtectiveEquipment”へ変更。このクリーニング・検査・リペアのCD23613に対するコメントは480項目にも亘り、会議中に消化出来た項目は 4 分の 1 だった。残ったコメントは11月にオーストラリアで開催されるPG会議で審議される予定。また、当日審議された大きな内容はRPD(空気呼吸器)に関して、SC15とのJWGが同時進行していることと呼吸器メーカー間で作業内容が異なることから、SC15でクリーニング・検査・リペアを協議して転記される模様。
2. JWG
(1)CBRN(Chemical-Biological- Radiological-Nuclear/化学・生物・放射性物質・核)に対する防護服
議長:デイブ・フロッシャム氏(イギリス)
前回の東京会議の議事録確認、登録エキスパートが52人となっていることなどが紹介された。
フロッシャム氏より、先週金曜に回覧されたドラフトについて、もっと早く作成するべきだったこと、今後の作業を進行させるために作られたドラフトであることが説明された。そのため、細部についての議論よりも、規格の構造について議論したいとのことであった。
結論として、近くNWIP投票を行い、オフィシャルに規格作成を着手するかを問うこととなった。投票期間は12週間。
主な議論は下記である。
- この規格の必要性について、現在策定が最終段階になった規格(WG 4 のFDIS17723- 1 )との違いが見えないため、規格作りを進めるかについて参加者間で合意が取れていない(スイス、日本は必要性に懐疑的)。他方、CBRNの規格を作ることには賛成だが、現状のドラフトには反対という意見も相当数見受けられた(オランダ他)。議長はWG 4 のFDIS17723- 1 のことを知らないとの発言もあり、現状の規格との相関関係よりも、CBRNという題目のついた規格の必要性があるといった認識で作業を進めているように見受けられた。この点はSC14議長のラス氏も同様。本質的な議論が熟しきっていない中、意見が割れ投票にて決めるという方向に動くこととなった。
- 製品規格ではなく、リスクアセスメント、ゾーニング、適切なPPEの選択ガイドとなるような文書とするべき。(日本)
- HAZMATとCBRNの区別、線引きをどう考えるか。(ドイツ)
3. WG2
(1)Station Uniform(ステーションユニフォーム)
議長:マーク・グリブル氏(オーストラリア)
DIS21942の投票が完了し、賛成多数で可決された。今回会議ではDISで各国から出されたコメントについて協議した。その中で日本から出した主要なコメントに対する結論は次のとおり。
- SCOPEについて、「消火活動に従事する者のみがこのユニフォームを着用する」との一文を加えたいと主張するも、確かに重要な観点でそのとおりであるが、それは各国の消防で判断して運用してほしいとして、否決。
- ボタン・ファスナー等のハードウェア及び10cm2以上のバッジ・ラベル等についてまで難燃性を持たせるという事は過剰であるとの意見に対して、必要な事であるとして否決。但しハードウェアは生地に覆われていれば生地の上からテストするとの記載が規格案にあるため、生地の難燃性次第では問題ない可能性がある。問題は生地に隠れていないハードウェアと袖ワッペン等の10cm2を超えるであろうバッジ・ラベル類ではないかと思われる。
- ニット素材の破裂強度について、100cm2でテストする時と7.3cm2でテストする時があるが、後者の要求値が200kPa以上というのは理論上低すぎるので「260kPa以上」とすべきとの意見について、非常に論理的であるとして、可決。
- 快適性試験について、日本で活動服の生地をいくつも測定した結果を踏まえ、熱抵抗値が「0.05m2 K/W以下」、水蒸気透過抵抗値が「7m2 Pa/W以下」とすべきとの主張について、前者はより幅の広い「0.055m2 K/W以下」というベルギーの案が採用され、後者は日本案が採用された。
- 制電性能について、4同様に実測データを基に提案したが、日本案である制電性能ISO 18080- 3 (摩擦帯電電荷量)で「7μC以下」という要求値は否決。
ISOでの測定方法に対して各国とも知見が無いという事で、原案どおりENの測定方法のままとなった。 - 堅牢度について、4同様に実測データを基に提案したが、洗濯・汗堅牢度は変退色のみ「 4 級以上」、摩擦堅牢度は乾摩擦のみ「 4 級以上」という日本案は否決。
総括としては、帝人鈴木氏の御尽力により、4、5については否決されたものの、オプションとなっているため日本にとって決定的な打撃とはならずに済み、懸念点であった快適性試験は日本(ベルギー)案が採用され、スコープ部分についても各国での運用次第であるとの議長の言質を得ることができた。
今回の議論を経て、コメントに対する決議を反映させて次にFDISへ進む事が決定された。
(2)ISO 11999- 9 防火フード
議長:エリック・ヴァン・ウィリー氏(スイス)
ISO 11999- 9 防火フードの初回見直しとなる。今回の会議では既に提出されたCD案の内容とその改定経緯、および検証方法等の説明となった。現規格との大きな相違点は、1浮遊塵埃から頭部及び首部を守るためにフィルター性能を付加、2頭部のムレを軽減するために頭頂部に換気口を設けることが出来る、36.14 Water vapour resistanceの記載、の 3 点。また、製品の伸縮による寸法変化を細かく測定することも説明された。現在の問題点としてフィルター効果を測定する機関と高コストが挙げられており、いくつかの機関で検証中との報告があった。
日本の総務省消防庁で発行しているガイドライン対象のISO 11999-1,-3,-4,-5,-6を来年度から正式に見直すことが決定された。 3 年後の発行期限とすると、時期的にパート10の消防隊用呼吸保護具もガイドライン対象にするか、日本で議論が必要である。
4. WG3
(1)WILD LAND(林野火災)
議長: リック・スワン氏(アメリカ)
各国から出された175のコメントについて協議した。その中で日本から出したコメントについて重要なものの結果は以下のとおりである。
- 林野火災用ヘルメットは軽量であるべきという日本の主張はわかるが、現状の世界で流通しているヘルメットの重量からして、800gを超えるヘルメットには注意喚起ラベルを張るということで妥結した。実質日本のヘルメットは600g以下である。ちなみにISO 11999-5の建物火災内部進入用防火帽は1500g以下である。
- ヘルメットに再帰反射材を付けるのは、デザインであり、必須要件ではないという日本の主張は、原野に広がった消防士を発見できるという本質的な安全機能が求められるという理由で否決。
- リテンションシステムについてISO 11999-5とISO 18639-5ではオプションになっているので、オプションに統一すべきという日本の主張は、そもそも建物火災と林野火災では高いところという概念が違う(高い木に登ったりする)のでオプションにはできないという理由で否決。
- 帽体への衝撃テストの半球ストライカーの直径は他の規格では通常48mm± 2 mmなので48mm± 1 mmに変更すべきという日本の意見は、世界の基準では通常50mmが基本となるという理由で否決。
- ANNEX B の4.01について、人体頭部モデルをキャビネット内で 1 時間180°Cに予熱し、キャビネット内に防火帽を取り付けて 4 時間半以上加熱するとライナーもヘッドバンドも溶融してしまい生命維持が難しいので現実的なテストではないから削除すべきだという主張に対し、項目5.6のパラグラフ 2 に、このテスト中にヘッドバンドや内部の部品が故障した場合、拒絶する理由にならないと書いてあるので否決。
- ANNEX B の5.01について5と同じ理由で削除すべきという日本の主張に対し、5と同じ理由で否決。
- ユーザーが求める曇り止めや傷のコーティングをしたプラスチック製のシールドは、180°C 4 時間のテストをクリアすることは難しいのでコーティングをしたものを除くという日本の主張は、他の国がコーティングをしても試験を通せるという理由から否決。
- 4.03.1.5.1のテストについてD 4 ではなくA 4 のテスト方法が正しいという日本の主張は可決された。
ISO 16073- 9 は次回WG MEETING後、FDISという意見に対し、小林団長からFDISとは限らないという意見が出て、その文章は削除された。
摩擦の試験についてマイク・スタンホープ氏(アメリカ)よりプレゼンがあった。
マーチンデール法の試験では、試験片が小さく、また 3 本糸が切れた時点で不合格とするのはリップストップ生地全盛の今、現状と合わない。
マーチンデール法で規定回数摩擦した後、耐熱耐火性テストなど出来るように現在の試験装置を上下逆に使用するべき。さすれば大きな試験片で確認出来るので摩耗劣化後の性能確認ができる。インスペクションにも役立てるし、現在の試験装置を買い替えなくてもよい。
TC38で検討してもらい、SC13に持ち込むことにした。
総括としては、日本の主張はほぼ否決された。否決されたことに対して何も言い返す準備がないのもふがいないので、海外へ行く前に日本でもう少しWG内で話し合うべきだと感じた。
5. WG4
(1)HAZMAT
議長: ウルフ・ニストローム氏(スウェーデン)欠席の為
代理でエリック・ヴァン・ウェリー氏
FDIS17723-1については、マイナーな修正事項を確認した。日本から、clothing, suit, ensemble が示す範囲を図示したイラストについて、前回のイラストからFDISにて変更されていた点について質問、修正を提案し、受け入れられた。
SC13が管轄しているISO 16602(化学防護服)の改定作業について、情報共有があった。これまでのタイプ 1 ~ 6 までの区分けは残しつ、モジュールアプローチという方法で大幅に改定する。内容的には、防護する身体の部位(全身、上半身、下半身、etc)、防護性能の高さ(ケミカルの種類)などを表示することと、既存の化学防護服に関する規格を包括的にカバーすることで、化学防護服の国際規格として使われることを目指している。
6. WG5
(1)非火災救助
議長: 石川修作氏(日本)
書記: 久保徹也氏(日本)
ISO 18639-1・3~6は既に出版が完了している。新しい規格番号で水難救助(Water Rescue)に関する規格案の策定を進めるかを議論する。初めに日本ゴア久保氏から総務省消防庁より2018年に発表された水難救助ガイドラインについてタイプ 1~ 5 までPPEの組み合わせがどのようなものかスライドにより説明をした。リスク評価は、現場状況が、静水、河川などのrunning water、潜水(ダイビング)について、ゾーニングがホットゾーン(被災者がいる中心部)、ウォームゾーン(被害発生している現場付近だが、安全が確保されているエリア)、コールドゾーンに分けられ、それぞれの区分においてリスク評価の結果に基づきPPEの組み合わせが設定されている。アメリカりNFPA1952(Surface Water Operations Protective Clothingand Equipment)の説明がなされた後、イギリスからスコープ(規格適応範囲)の原案が用意されており、その説明に入った。水難救助と同時に、ガソリンなどの流出の発生に備えた化学防護や、微生物に対する耐性を持つことなど、多様な局面を考慮して規格を作成するべき、との意見が出された。各国の救助事情に関して意見交換があり、SC14議長の提案で、イギリスからのスコープ案を回覧し、コメントを集めた後、11月にオーストラリア・メルボルンで行われる会議の後に、48ヶ月の期限でNWIP登録をすることが決められ、会議を終えた。
7. SC14/SC15 JWG
(1)RPD(自給式呼吸用保護具及びろ過式呼吸用保護具の性能要求事項特殊呼吸器について)
議長:ダーク・ホゲベリング氏(ドイツ)
今回のミーティングは、JW 1 とSC15からSC14メンバーへの報告である。
- 経緯と進捗
1 月のロンドン議論の総括と課題進捗の説明- PASS(昏倒警報装置)は規格に追記する。(本件は完了)
- 【US053】露出したアルミ合金のスパーク問題は、とNIOSHを調査・確認中である。
- 【IT057】防炎試験は、試験装置でシミュレーションしている。
- 【FR081】耐静電気の要求性能も試験を実施・確認中。
- ISO 17420の説明(以下、ドイツMSA社 トーマス氏が説明)
ISO 17420シリーズPart 1 ~ 8 の順に記載内容の説明があった。 - 水没試験の追加
船舶用の試験を引用し、 6 方向で 1 m水没する試験を追加した。 - 質疑応答
- CBRN災害の場合は、出動当初それがCBRNとはわからないはず。どのクラスを使えばよいかはどう判断するのか?
→ CBRNの規格は別にある。何が適切なクラスなのかを選択できるような規格としている。 - Part 1 との協調は?
→ Part 1 を基調として、Part 5 では更なる消防用の要求を記述している。 - FF 4 とFF 5 について(温度の違い)
→ この問題は長く議論されている。10月の会議で更に議論され、現在のドラフトでは両論併記している。ユーザーが選択できる状況を残すことが重要だと考えている。
→ ヨーロッパでは260°Cは過大な要求である。 - 本規格中にリスクアセスメントのガイダンスは入っているか?
→ Table 3 のマトリックスが示す試験状況リスクアセスメントになる。 - 鉱山・船舶用は消防用に入るのか、船舶用の水没を引用する必要があるのか?
→ 消防用はISO 17420-5であり、船舶用、鉱山用は、別にある。 - 6 方向を 1 分間、合計 6 分浸漬する試験は実用とはかけ離れている。
→ 6 分間水没ではなく、 1 分間の水没試験を 6 回やる。これは要求ではない。試験である。
- CBRN災害の場合は、出動当初それがCBRNとはわからないはず。どのクラスを使えばよいかはどう判断するのか?
8. PLENARY(全体会議)
(1)関係組織からの連絡、情報共有がなされた。NFPA、SC13など。
(2)各WGからの報告。特に異論なくWGの結論が決議事項として採用された。各WGからの報告。特に異論なくWGの結論が決議事項として採用された。
(3)水難救助装備を始めるにあたり、TC 8 船舶用装備とリエゾンをとることを正式に要請することになった。
次回は、WG-PG会議が11月11日の週にオーストラリア・メルボルンで予定されている。WG 1 、 2 、 3 、 5 (ISO 11999- 9 、ISO/TR21808、ISO 15384、ISO 11613、CBRN等)がメインの会議の予定。その次は2020年 6 月のドイツ・ハノーバー市にて開催されるインターシュッツ展示会の翌週に開催予定。2021年度はアメリカ・ノースカロライナ、もしくは上海にて開催予定。