ISO/TC94/SC14 東京会議報告

ISO/TC94/SC14(消防隊員用個人防護装備)国際会議

会議概要・報告書

Ⅰ. 開催日時

日程: 令和5年2月14日(火)~ 17日(金)

月日 曜日 9:00-17:00
2/14

ISO 11999-3、-4

2/15

ISO 11999-9、ISO 23616

2/16 ISO 11999-5、-6
2/17 ISO 11999-1、WG1

Ⅱ. 開催場所

会場: ヤクルト本社ビル6階会議室
ヤクルト本社ビル6階会議室

Ⅲ. 出席者

ISO/TC94/SC14の役職者以外は「ISO/TC94/SC14」を省略する。

1. 日本・Convenor, PG leader or Secretary(6名)

Robert Vickery(ISO/TC94/SC14議長、SA:Australia)、小林寿太郎(ISO/ TC94/SC14副議長、国内審議委員会副委員長)、小林恭一(ISO/TC94/SC14国内審議委員会委員長)、池田倫浩(国内審議委員会委員、総務省消防庁課長補佐)、平口隆志(国内審議委員会委員、全国消防長会業務企画課長)、西原良徳(国内審議委員会委員、東京消防庁装備参事)、辻創(国内審議委員会WG1主査、カケンテストセンター)、渡辺光史(国内審議委員会委員、日本ヘルメット工業会)、笠井一治(国内審議委員会委員、日本安全靴工業会)、栃原裕(国内審議委員会委員、九州大学名誉教授)、佐藤出(国内審議委員会WG2主査、テイジン)、園部修(国内審議委員会WG2主査、帝国繊維)、池田信一郎(国内審議委員会PG 21808:SUCAM主査、デュポン)、藤波雅彦(国内審議委員会PG 23616:CIR主査、廣瀬商会)、城田剛(国内審議委員会事務局)、David Matthews(ISO/TC94/SC14WG1及びWG2コンビナー:United Kingdom)、Diane Hess(ISO/TC94/SC14WG1及びWG2セクレタリー:United States)、Francis Magnolini(AFNOR:France)、Bruno Ulliac(AFNOR:France)、Amanda Newsom(ANSI:United States)、Rick Swan(ANSI:United States)、Thomas Manek(ASI:Austria)、Richard Balleimer(BSI:United Kingdom)、Brett Egan-Briers(BSI:United Kingdom)、Dirk Hageboelling(DIN:Germany)、Jingyu Lee(KATS:Korea)、Vera DeGlas(NBN:Belgium)、Maurice Kemmeren(NEN:Netherland)、Estone Pauga(NZSO:New Zealand)、Sam Milsom(NZSO:New Zealand)、Caleb Yap(NZSO:New Zealand)、Neil Mangelsdorf(SA:Australia)、Mark Tarbett(SA:Australia)、Kerry Vikery(SA:Australia)、Eric Van Wely(SNV:Switzerland)、Lopez Oscar Cerrand(UNE:Spain)

吉田敏治(全国消防長会事務総長)、太田孝(全国消防長会事業部長)、罍嘉人(全国消防長会技術係長)、小野修(東京消防庁装備部長)、関政幸(東京消防庁副参事)、村上和也(東京消防庁個人装備係長)、中島一優(東京消防庁個人装備係主任)、篠崎信介(さいたま市消防局装備係長)、岡田博和(さいたま市消防局装備係主査)、宮地香弥(横浜市消防局労務厚生係長)、重光昌(横浜市消防局警防係主任)、今美弘(横浜市消防局警防係主任)、水野角栄(名古屋市消防局消防課長)、長谷川祐介(名古屋市消防局消防係主任)、永沼和彦(大阪市消防局施設課長)

Ⅳ. 議事

1.  ISO 11999-1(概要)

一般要求事項については、コメントシートのReviewが行われた。日本から提案していたコメント内容については認められたものとそうでないものがあるものの、全体として日本に対して大きく影響が心配される部分はない。今後、DIS投票に進む予定。

  • PPE Ensembleの定義、検討の結果、部分的に認められる。定義について、よりPart2 Compatibilityにて詳述することになった。佐藤PG Leaderが素案作成、提案へ。
  • Clause5 Markingに5.5 Compatibility instruction for useが包含されているため、記載の内容を別Clauseとして分離。
  • 我が国の消防士は熱中症の危険性に関する意識が高いため、Introduction中に熱中症に関する記述を加えるコメントを提出することになった。

などのコメント対応が行われた。他国のコメントに対応するためのインプットは次の投票でとの議長指示があり、反論について十分に行える機会がなかったことが消化不良。

2.  ISO 11999-3(防火衣)

2022年2月14日のTC94/SC14/WG2/PG3におけるISO11999-3(防火服)改訂の議論について、CD案からの主な変更点は次の通り。

<耐熱性>

  • 外生地: 260℃ 5分 収縮 <10%
  • 中衣生地(断熱層、透湿防水層): 180℃ 5分 収縮 <5%
  • ハードウェア等(ジッパー、ラベルなど):180℃ 5分 収縮 <5%

→日本はハードウェア等の耐熱性の観点から180℃を主張しており、上記修正案で問題なし。

<遮熱性>

  • 火炎に対する遮熱性

HTI24/ΔHTI24-HTI12 (洗濯前) : >13秒/>4秒

HTI24/ΔHTI24-HTI12 (洗濯後) : >15秒/>4秒

  • 輻射熱に対する遮熱性

RHTI24 /ΔHTI24-HTI12 (洗濯前) : >18秒/>4秒

RHTI24  / ΔRHTI24-RHTI12 (洗濯後) : >20秒/>4秒

→当初のCD案よりも下がった数値になったが、日本が主張しているISO11999-3:2015および国内ガイドラインのレベルよりは高い数値となった。今後上記数値にてDISが提出されることなるが、日本としての態度は協議が必要である。

<耐摩耗性 (マーチンデール法)>

外生地: >20,000回, 中衣:>15,000回 (任意試験)

→数値はCD通りであり、日本が削除を要求した中衣の試験もそのままの数値となったが、日本やアメリカの主張によりすべて任意試験となった。

<その他の機械的物性>

  • 熱暴露後の外生地の残存強力
  • 10kW 5分の熱暴露後、残存強力>600N
  • 外生地の引張強力>650 N
  • 外生地の引き裂き強力>40 N
  • 縫目強度(Structural Seam) >300N

→これらの要求性能について、日本としては問題ないと考えられる。

<微粒子防護性能>

  • 防火衣全体の試験として、ISO 16602-5 Annex C /ISO 16602-4にて試験データの収集を行うことで合意した。
  • 生地の試験としては、CD通りASTM F2299 を試験方法として維持する
  • 微粒子防護性試験の必須/任意については、引き続き議論が必要である

<その他>

  • PG3会議の冒頭に、栃原九州大学名誉教授のご紹介でJoo-Young先生によるプレゼンが実施され、消防装備の軽量性の重要性についての研究結果をご紹介いただいた。
  • 遮熱性引き上げの議論にて、日本の消防が装備の軽量性、機動性を重視している旨、全国消防長会を代表して、東京消防庁西原参事よりご発言頂いた。

<今後のステップ>

  • 今回網羅できなかった項目、コメントについて、6月の米国会議で議論実施した上で、次のステップであるDISへ移行する。6月の米国会議では、今回東京で議論した項目、コメントについての議論は原則行わず、今回の妥協案がそのままDISに記載される。

3. ISO 11999-4(手袋)

現行ISO11999-4(手袋)規格からCD案の代表的変更点は以下のとおり

  • 耐熱性(火炎曝露・放射熱曝露)→現行要求規格より約2割アップ
    影響:手袋の種類によっては生地厚増量が必要となり活動性の低下が見込まれる
  • 耐熱性(手袋完成品・最内装生地)→現行要求規格180℃から260℃へアップ
    影響:熱ばく露試験後の収縮率5%以内の要求に対して手袋本体は問題無いが皮革部分の収縮は対応が必要
  • 摩耗抵抗(積層状態)→現行要求規格から部位によって最大4倍アップ
    影響:ほぼ影響無いと思われるが、手袋を構成する素材によっては仕様変更が必要
  • 手先器用性(手袋本体)現行要求規格のクラス3からクラス4にアップ
    影響:日本からの性能アップの要求が採用された。日本の手袋では問題無い
  • CDからDISに進み、今年9~10月頃開催予定のWG会議で審議が行われる予定。

4. ISO 11999-5(ヘルメット)

・ 衝撃保護範囲

CD案では、前頭部80度、後頭部、側頭部90度と全周囲を保護する案であった。EN443及び消防ガイドラインでは、頂部30度の保護を取り入れられていることから、日本の消防関係者より、日本の消防は、全面保護による重量増よりも、機動性の低下と熱中症への危険性の方を不安視していること、また「消火戦術」と「装備」を合わせることで、現場活動で最高のパフォーマンスが出せるように訓練されている。そのため、装備を過剰にすることで、耐火性能が上がることが必ずしもメリットにはならず、性能が上がった分、これまでの消火戦術を変更する必要性が出てくることになりかねないため、装備と戦術を変更する必要性は乏しい旨の発言をした。その結果、妥協案としては「頂部は従来通り」、「側部は、60度の後頭部、側面に5㎏の平面形ストライカを高さ1.87mから落下させ15kN以下」と妥協案で合意した。

  • 墜落時保護(加速度試験法)

CD案では、高さ2.5mから落下した場合のリスクに対して、全周囲保護の内容となっている。日本では高さ2m以上で作業をする際には安全帯を着用し、そもそもの安全対策を行っているため、日本では転倒によるリスク軽減については国内で別途性能要件にてカバーしている旨を伝えた。その結果、欧州等でも採用されていないことなどから、墜落時保護に対する加速度試験法については、オプションとなった。

  • 難燃性試験

従来の放射熱暴露がオプションとなり、帽体、シールドに対してのマテリアルテストとして、帽体表面、帽体縁、シールド縁に対する難燃性試験が提案されている。シールドについて、日本ではしころに隠れる部分であるため、オプションとなったが、帽体縁に関しては、改正案では取り入れられることになった。

  • 再帰反射

日本ではヘルメットに再帰反射加工をしているものとしているものがあるため、ユーザが選択できるようオプションとすることを要求したが、日本を除くすべての国が再帰反射をヘルメットには必要となったことから、次回案では再帰反射加工が必須事項となった。

  • 耐熱性260℃
  • 電気関連

これまで、ISO11999-5(Type1)及びEN443では、導電性試験は必須事項となっており、絶縁性試験についてはオプションとなっていた。CD案では全てのリスクに対応するため絶縁性を必須要件とするようなっているが、日本では軽量化を図るためFRP製を採用しているため、FRP製の欠点としては内装をつけることが成型では出来ないためリベットを用いている。リベットには金属が用いられているため浸せき試験委おける絶縁試験の規格要求を満たすことが出来ない。試験時における水位等を下げる交渉をおこなったが、不採用となり、絶縁試験が採用されることになった。

  • しころ

しころの性能要件は、防火フードで議論されていたが、防火フードとしころが異なることから、要求性能はISO11999-5(ヘルメット)に記載することとなった。

  • 2023年4月2週目までDISを作成する。6月の会議には間に合わないので、9月、10月にWG1とWG2のミーティングを実施する。場所は未定。

5. ISO 11999-6(靴)

  • 多数のコメントがあったが、ほとんどのコメントが“ed(編集)”であった。事前に確認し、基本的にAccept(受入れ)とした旨、報告あり。
  • ドイツ(DE)の“tec(技術)”コメントについては、コメントの元となる参照規格がENであったため、Reject(拒否)となっている。
  • 日本の“tec(技術)”コメント2種類について
  • 耐滑性に関して、スチール床の削除と水平試験の削除反対
  • ユーロタイル2の入手が難しいことを理由にスチール床を残し選択できるようにすることを提案。

⇒PGリーダー(オーストラリア試験機関職員)より、入手は難しくなく、供給元の情報は共有できるので、相談してくださいとの提案あり。

⇒ISO 20344改正時に行ったラウンドロビンテストで、ばらつきが大きかったことがオーストリア試験機関職員より説明あり、Rejectとなった。

  • 水平試験については、消火活動時に放水作業等では足裏全体で踏ん張ることがあるため、削除すべきではない旨を説明。

⇒この試験モードについても、オーストリア試験機関職員よりISO 20344改正時に行ったラウンドロビンテストで、ばらつきが大きかったとの意見あり。

⇒着用者の作業は理解していただけたものの、参照規格であるISO 20344からは削除されているので、そこが問題であるとの見解。

⇒ISO 20344が参照している耐滑試験方法のISO 13287では、水平試験は残っていることを伝える。

⇒今回のコメントとしては、RejectとしてDISに進むが、DIS投票時に“ISO 13287を参照規格とし、水平試験を残すべき”とのコメントするように要請された。

  • 表底の耐熱性に試験時間40分に統一の反対
  • 表底の耐熱性を40分に統一する事による問題点として、火傷のリスクを実際に防火靴の高温熱伝導性試験結果と紐づけて説明。

⇒EUのPPE規制では40分が要件だが、この要件が着用環境を考慮したものになっていない事に理解を得る。

⇒PGリーダーよりDISでは20分への変更が提案され、会議参加国から同意を得られた(Accept)。

  • ドイツ(DE)よりデザインB(中編上靴)の採用の提案があったが、オーストラリアでは転倒時に足をくじく要因となるため、採用しない事が多い旨、発言あり。

⇒PGリーダーより会議参加国に対し、自国に戻り意見を確認するよう要請した上で、コメントは取り下げられた(Withdraw)。

6. ISO 11999-9(フード)

現行ISO11999-9(防火フード)規格からCD案の代表的な変更点は以下のとおり

  • 耐炎性(表面着火・下端着火)→現行要求規格の表面着火に加え下端着火が追加
    影響:多くの防火フードに使用されるアラミド繊維であれば特に影響無し
  • 熱伝達性(火炎曝露・放射熱曝露)→現行要求規格より約2割アップ
    影響:防火フードの種類によっては生地厚増量が必要となり活動性の低下が見込まれる
  • 耐熱性(防火フード完成品)→現行要求規格180℃から260℃へアップ
    影響:熱ばく露試験後の収縮率10%以内の要求に対してアラミド繊維以外の使用材料には見直しが必要となる
  • 微粒子防護性能(発ガン性物質を含む微粒子からの保護)→新規提案(オプション)
    影響:オプションのため消防本部の採用の有無によるが、会議の流れ次第では必須となる可能性もある
  • 頭頂部の通気口→従来のISO11999-9ではオプションとして認められていたが、反対国の主張により、オプションとしての記載が削除される
    影響:頭頂部の通気口が不可となり、フードの熱的快適性が低下する
  • 水蒸気透過抵抗(快適性能)→新規提案
    影響:これまで要求されていなかったが、着用者のヒートストレス緩和のため採用。要求性能は各試験機関の試験結果参考に決定される。
  • 防火フードの代替としてシコロ使用の可否→PG5(ヘルメット)へ転記
    影響:これまで防火フードの代替としてシコロの使用が認められていたが、一転して削除を求められた。日本より強硬に申し入れPG5(ヘルメット)への文言転記により継続を図る。
  • CDからDISに進み、今年9~10月頃開催予定のWG会議で審議が行われる予定。

7. ISO 23616(CIR)

会議では、CD投票時に各国から出されたコメントに対する対応をした。なお、日本から出していたコメントは無く、他国から出されたコメントに対する日本の意見を表明するにとどまり静観していた。会議の進め方として、CD投票時のコメント審議であるためConvenerが必要とするDiscuss(議論)コメントのみの対応となり、修正点の提案は次回の投票時にコメントとして受け付けるのみとするとの方針があり、反論の機会をCD段階ですることができなかったことは残念であった。このような背景であることから、DIS段階であっても大幅な変更の提案を日本から行うことは止むを得ないものと思われる。現時点では、現行規格からの大きな変更点はない。ただし、呼吸器に関する検査については、「高度な検査」のみの記述となっていたが、「通常の検査(日常検査/使用前検査等)」も存在するため、日本から該当部分の書き直し修正案を提案することになった。

8.WG1

  • 前述したISO 23616(洗濯,検査,補修;CIR)の改正は、コメント対応をした上DIS投票へ進むことが決議された。
  • 並行して審議をしているISO 21808(装備品の選択、使用、保守、管理;SUCAM)については,日本からSUCAM規格の体系化の提案をしたが受け入れられず,プロジェクトリーダーが現在提示しているドラフトをベースに審議を進めていく方針が示された。規格タイトル(SUCAM全体を対象とする)と内容(そのうちSとUのみにする)が整合していないことからタイトル変更に関する提案があったものの,日本としてはタイトル変更の提案を棄却した上で内容変更を試みたが,以前の会議にて表題変更の決議行っていたため,表題は改定されることが再確認された。したがってISO 21808は「装備品の選択、使用」に関する規格として改正していくことになった。内容の審議は次回の会議に行われる。日本としては、今後の審議において今回受け入れられなかった日本からの提案内容を入れ込んでいく予定である。

Ⅴ. まとめ

  • ISO 11999-1(概要):DISへ進む。
  • ISO 11999-2(コンパチビリティ):米国で審議予定。
  • ISO 11999-3(防火衣):米国で引き続きCDコメントを審議し、その後、DISへ進む。
  • ISO 11999-4(手袋):DISへ進み、秋のWG会議で審議予定。
  • ISO 11999-5(ヘルメット):DISへ進み、秋のWG会議で審議予定。
  • ISO 11999-6(靴):DISへ進む。
  • ISO 11999-9(フード):DISへ進み、秋のWG会議で審議予定。
  • ISO 23616(CIR:洗濯、検査、補修):DISへ進む。
  • ISO 21808:以前のSUCAMはSU(選択、使用)に関する規格とすることになった。